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第29話 「美しい君のために」by 種市 弦



クロマチックハーモニカ奏者のマツモニカさんをお迎えしての後編。 25年前、当時サウンドプロデューサーだった故・佐藤博さんのキラキラしたシンセハーモニカが散りばめられたアレンジを想い出し、僕のデビュー曲「美しい君のために」を選曲しました。かれこれ15年以上は歌ってない楽曲で、この先もう歌うことはないかなと思っていた楽曲だったのですが、そんなのを引っ張り出してイイトコチョイスできるのもこの番組の醍醐味でもあります。

17歳だった僕は「歌手になりたい奴など山ほどいるから郵送したデモテープは聴かれずに捨てられるのが鉄則だ」という噂を強く信じていたので、後に所属することになる音楽プロダクションの社長に会ってもらえるようナケナシのコネクションを駆使してアポイントを獲得しました。

渾身の3曲入りカセットテープを社長様に直接手渡し、ついに訪れた無言の直談判。 目の前で聴いてもらうのは僕のたっての希望だったのだけれど、下を向いたまま黙って重苦しいバイブスを放ってる社長が目に入るたびに、本当に息が詰まる思いだった事も懐かしく思い出せます。 ところが3曲目の「美しい君のために」を聴いてる途中に、重い空氣が一変しました。さっきまで沈黙で腕組みしかめっ面だった社長が何度もテープを止め、止めては巻き戻し、何かを発見したかのように繰り返し聴いてるんですね。何度か繰り返し聴き終えた社長がまるでドラマのワンシーンのように開口一番こう言いました。 「弦、イケるかもよ」

就職活動1社目にして合格通知をもらったような晴れ晴れしい氣分で、僕はそこから2年半、何十曲も作り貯めていったわけですが。ついに迎えた1994年、僕のデビュー曲として選ばれたのは、またしてもこの曲「美しい君のために」だったのでした。

10曲入りのレコードを「アルバム」とはうまく言ったもんで、その一曲一曲に縁や個性、歴史、物語があるんですね。僕にとってこの楽曲は永遠に切り離せない強い結びつきを感じてやみません。 25年の時を経て、今回マツモニカさんという新しい息吹とマリアージュさせ、天国にいる社長と佐藤博さんに感謝の思いを放ったセッションとなりました